- 2008年3月13日 13:34
- news
現在配布されているジャングルライフにも掲載されているpasadenaインタビューの完全版をアップしました。
インタビュアーはいつもお世話になっているジャングルライフの桑村さん。多謝です。
転換期を迎えたpasadenaの集大成『encontro』、その裏側にある意識とは?
エレクトロニカの出現にインスパイアされ、ダブという手法を取り入れたギター・インストゥルメンタル・ミュージックを作っていたのが初期pasadenaであるとするなら、この3rdアルバム『encontro』は音楽的転換期を迎えたpasadena=イシモトサトシの新たな意識が全編に注入された作品と言えるだろう。全曲バンドサウンドにこだわりヴァイオリン、スティール・パンまで取り入れた今作は美しくも穏やかで、軽やかに深みを見せる。それはさり気ない佇まいでありながらも今、音楽を作る意味も静かに問いかけている。
(インタビュアー/Jungle life 桑村 治良)
「自分の創作活動の根っこにあるのが“諦観”と“前進”っていう感覚があってさ。」
●今回のアルバム『encotro』の構想っていうのはいつ頃から考えていたんですか?
イシモト:2枚目の『One Point Five』(2005.6.20)を出した後に漠然と、次はバンドでやりたいなとは考えてたんですよ。それで2006年にはリリースしたいって思ってたんですよね。
●当初は1年に1枚、アルバムを作るつもりだったんですよね(笑)。
イシモト:そのくらいのつもりでやりたかったんですよ。それで頑張りたかったんだけど、まず曲が2006年の段階では揃わなかったんですよね。
●それは何ですか? スランプっていう事ですか?
イシモト:いや、なんかわからないけど(笑)。まあ、あんまり曲を作らなかった。でも、ライブではちょこちょこと新曲はやり始めていたんですよ。ただ、これまでは曲も全部自分で作っていたんですけど、『One Point Five』以降はライブも1人じゃなくてバンドでやることが多くなってきたんです。
●pasadena with poundhip upsetters(pasadena/イシモト、Drum.Jimanica、Bass.藤川秀之(microshot)による3人のバンドセット)のライブが増えていったと。
イシモト:そうそう。だから曲もヘッドアレンジっぽい感じで、バンドで作っていくことが多くなってきた。なんとなくみんなで考えて、セッションしながら曲を作るみたいな感じですね。当然、曲となる最初のモチーフはこちらから提示するんだけど、ライブとかでやっていくと曲も段々と変わってくるわけじゃないですか。そういう感覚っていうのも久しぶりだし楽しいなって思っていたんですよね。●じゃあ、曲の作り方は完全にバンドのやり方ですよね。
イシモト:そうだね。今回のアルバムに収録されている曲は、そういうのが多かった。●今のイシモトさんにとっての、音楽のインスピレーションって何ですか?
イシモト:曲を作るとっかかりみたいなのは…なんだろう? まあ、いろんな所に行くようになったっていうのが大きいんだと思うんですよね。地方の野外イベントに参加したり、プライベートでも毎年沖縄の波照間島に行くようになったり。そういう所で見聞きしたものが、音楽のとっかかりになっている。でも、あそこの海が綺麗だったとか、そういうことを音楽にするわけではないんですよ。あくまでもそういうものに触れた時に自分が何を思ったのかって感覚が大事なわけであって。自分が音楽で伝えたい事っていうのは一貫していて、それはずっと変わらずに自分の根っこにあるんです。それをどうやって表すかっていう時に、そのモチーフが旅先で見た光景とかそういったものになっていく感じですね。それでポロポロとギターを弾いてみて、メロディーの断片が出来たりとか。リズム…ベースとドラムのコンビネーションみたいなのが思い付いたり。そうやって、少しずつ膨らませていくっていう感じですよ。●イシモトさんって、どっちかというと北に行くより南に行く方が多いじゃないですか。沖縄とか離島に惹かれる理由って何なんですか?
イシモト:やっぱり自分が東京生まれの東京育ちでっていうのは、大きいと思うんだよね。波照間島とかに行くと、自分が住んでる東京とは同じ日本なのに全然違う。沖縄の海にしても、実際に生で見ると全然違うじゃないですか。ああいう透明感みたいなのって、言葉には出来ないんだけど何か引き付けられるものはあるんだよね。●俺もどっちかっていうと南の方に惹かれるんですよ。で、何でか知らないけどそういう所に行くと1人になりたくなるんですよね。
イシモト:そうなんだ(笑)。●もちろん、ずっと1人じゃなくてもいいんですけどね。そういう所で1人になることの孤独感みたいなのが貴重だと思っていて。それは寂しいとかそういうのではなくて、気持ちよかったりするんですけど。
イシモト:あ、そういうのはあるかもね。波照間島でもさ、朝の6時くらいに海へ1人で行くんですよ。さすがにその時間は誰もいないから、1人で海に浮かんでボウっとしたりする。大平洋の景色の中に1人でプカプカ浮いて、何を思うでもなくぼーっとしてるとさ…普段考えないといけないなと思っていても、あくせくしてじっくり考えられない事を考えられたりするっていうのはあるよね。あと俯瞰して見た時に、海と対比して自分が非常に小さいわけですよ。その距離感みたいなのが良いなって思うことは多々あったね。●そういう感覚っていうのは、音楽に対してダイレクトに結びついたりするんですか?
イシモト:それは結構あるかもしれない。元々、自分の創作活動の根っこにあるのが“諦観”と“前進”っていう感覚があってさ。基本的に世の中はままならないもので、自分の思い通りになる事なんて殆ど無いって思うわけですよ。何かを自分の思い通りにやったと思っていても、何かに流されてるだけだったりするじゃないですか。わりと自分の考え方の根っ子には“そういうものだよ、人生は”っていうのがるのね。●それはわかります。って言うか、諦めるっていうことは結構大事なことだと思います。
イシモト:僕は高校生くらいの頃からずっとそういう意識があってさ。割と20代の後半まではそれで思考がストップしてたからね。でも、30歳くらいになってから“でも、何もしなかったらそれで終わりじゃん”っていうような思考が出てくるようになってさ。そういう諦観っていうのもある上で、でもやっぱり人はやっていかなきゃダメだろみたいなさ。●生きていく事自体そんな感じでしょうからねぇ。
イシモト:まあ、諦めてるのがカッコいいみたいな時代もあったしね(笑)。80年代とかにクールに相対的に物事を捉えるのが良いんだって風潮があったでしょ。でも、それだけじゃダメだって思うようになったんですよね。それで前進していく意志を曲の中に入れるようになってきた。ただ前進の裏側には諦観っていうか客観的な現状認識が無いと、ただの絵空事になるっていう感じがしてんだけどね。でもね、巷にある音楽とかだと前進する事だけを言っている人はいるんだけど、その後ろ側っていうのが落っこってるケースは結構多いなと思っていて。●その後ろ側って何ですか?
イシモト:ただ“頑張ろう”とか言ってるだけっていうかさ。今はそうでもないかもしれないけど、一時期はそういうのばっかりな時期があったじゃないですか。テレビをつけると「明日に向かってなんとか〜」とか曲が流れていたり。あれは、どうにもいかんなと思うわけですよ。だけど逆に現状に対して文句ばっかり言ってるのも、生産性が無くて嫌だなっていうのはある。それは言葉の入っている音楽であろうが、インストであろうが同じ事なんですよ。だから外側に向けてポジティブな表現じゃないといけないって、日々努めてはいるんですけどね(笑)。●アルバムの1曲目の「dinghy」は、音に陽気さとか遊び心みたいなものがあると思うんですよ。でも、なんでそんなモードが出てくるのかって考えると別に無邪気に作っているとは思わない。
イシモト:全然そういうのではないね。もっと切実だからさ(笑)。そういう陽気とか明るいっていうのも切迫した感情の中から出てきてる。●そうですよね。曲の体裁としてそういう明るい雰囲気をまとっていても、何%もしくは何10%かで、その人がもっている思想が出る。インストとかってそういうのが実ははっきり…。
イシモト:出ると思うよ。すごく出ると思う。●別にこのアルバム自体が押し付けがましい音とかでは全くないんだけど、作っている人間の意図は見える感じがするんですよ。多分、このアルバムを聴く人の第一印象は、音の気持ち良さだったりメロディーの美しさだったりに惹かれると思うんです。まあ落ち着けたり、気持ちよくなるためのシチュエーションミュージックとしての機能性に惹かれると思うんです。ただ、そういう音楽を表現する背景には、現状認識があった上で“仕方ないか”って思いながらも、じゃあ“何をするんだ?”っていう動機があるわけで…、そういうのはアルバムを聴いているとなんとなく感じたりしますけどね。
イシモト:うん、そうだよね。まあ“仕方ないか”っていう程の後ろ向きじゃないけどさ(笑)。そこは断固たる意志みたいなのがあるんだよ。あとね、北朝鮮が日本にミサイル打ってきた時があったじゃないですか。ちょうど「dinghy」とかをライブでやり始めた頃なんですけど、あのニュースを見ていた時にこれちょっと本当にやばいかもって思ったんですよ。●あぁ、このまま安穏としていられるのかと。
イシモト:こんな時にギターなんかを弾いてる場合なんだろうかって思ったわけです。でも、じゃあそれで自分に何が出来るのかって考えたんですよね。政治活動したり、ビラを撒いたりするのは自分の仕事じゃないと思ったし、そういう政治的な音楽をやるのも僕の役目じゃないような気がした。それで自分に出来るのは何かなって考えたら、例えば自分の作品を聴いてくれた人が、心の平静を取り戻してくれるようなことなんじゃないかって思ったんですよ。それは“戦争はいけない”とか“愛し合わなきゃいけない”とか、そういうこと以前の感情なんだよね。●メッセージじゃなくて、もっと感覚的なものということですか?
イシモト:何かモワンとした…あまり人に対して怒ったりしないとか(笑)。夜に仕事から帰ってきて、ビールを飲んでホッとするとか、そういう感覚と同じものですね。何かを声高に訴える以前にそういう感覚の連続っていうのが、必要なんじゃないかって思ったんです。だから自分では、あの時にpasadenaで自分がやるべき方向性っていうのが確認できたって気持ちはありましたね。
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